はじめに

 流動現象は、生物の細胞などミクロな世界から地球・宇宙などのマクロな領域まで、幅広い空間スケールにおいて現れます。 さらには、航空宇宙、地球環境、医療技術、材料加工、次世代エネルギー産業など、様々な工学分野で応用されています。 我々は、多岐に渡って重要な役割を担っている流動現象の本質的な性質を、数理解析的手法やスーパーコンピュータによる数値計算を使って解析し、学問や科学技術の発展に貢献することを目指しています。

渦構造とそのダイナミクス

 流動現象の解明のために渦運動の理解は重要な役割を果たします。 渦の動力学の立場から、渦構造のもつ特性・多様性・普遍性を解明することを目標とし、さまざまな渦構造の性質とダイナミクスについて研究しています。 特に、右図のように、ドーナツ型の渦輪がそのままの形状を維持できずに、波打つように変形していく不安定性について数学的手法を用いて解析的に調べています。近年、新しいタイプの不安定性、曲率不安定性が存在することを発見しました。これは、曲がりをもつ他の渦構造にも同じ不安定性が存在する可能性があり、いくつかの例について確かめています。
 また、定常的な渦が形成される過程についても関心があります。 渦対生成の実験を正確に再現するような高精度数値計算を行い、実験では調べることが難しい詳細な性質を調べています。 右の動画は、平行に並べた二枚の板の間の流体をピストンで押し出すことにより、一組の渦対を形成する実験を再現したものです。生成された渦の断面は完全な円形ではなく楕円型に変形しており、時間の経過に伴いさらに小さな渦が発生していく様子を観察することができます。

Volume Penalization法による高精度数値計算法

 流体科学において今後需要が増すと予想される高精度の数値シミュレーション手法の開発を行っています。特に、埋め込み境界法の一種であるVolume Penalization(VP)法に着目し、さらなる精度向上と適用範囲の拡大を目指しています。VP法は複雑形状かつ移動する物体周りの流れ場を比較的容易に計算することが可能な方法です。様々な空間微分の離散化法に導入することができるので、スペクトル法やコンパクトスキームなどの高次精度スキームに適用し、複雑形状物体周りに発生する渦や空力音の計算を行うことができます。また、VP法では物体の中の圧力場を同時に求めることができます。
 右上の図では、VP法を使って計算した一様流中の角柱周りから発生した音波を示しています。赤が無限遠方の圧力より高い圧力、青が低い圧力を表しています。図の中心に位置する角柱に対し、左から右へ一様に流体が流れると、角柱の上下方向に正負の圧力パルスが音波として遠方へ伝播します。右下の図は、角柱内部と角柱近傍に形成される圧力場を表しています。点線で囲まれた領域は角柱内部の領域です。流れが左側から角柱へ衝突することにより、角柱前方の圧力が全体的に上昇していることがわかります。

圧縮性乱流

 自然や工学の問題で現れる流れの多くは乱流状態にあります。乱流は不規則かつ複雑な流れであり、その振舞いを予測することは困難です。しかしながら、様々な研究により一様等方性乱流に関する統計法則が明らかにされてきました。これらの法則の多くは非圧縮性の仮定の基に導出されたものですが、航空宇宙工学や宇宙流体力学の分野で取り扱う流体の中には圧縮性が無視できないものもあります。私たちは、圧縮性乱流の基礎研究として、二次元低マッハ数・低レイノルズ数の弱圧縮性乱流に対し直接数値計算(DNS)を行い、非圧縮性乱流で成り立つ統計法則の適用可能範囲と圧縮性乱流特有の性質を明らかにすることを目的として研究を行っています。
 右の図は、一様等方性の圧縮性乱流の渦度場です。圧縮性の効果が渦の構造にどのような影響を与えるのか、それに伴い統計法則がどのように変化していくのか、詳細に調べていく予定です。

電磁流体力学

 電磁流体力学の新しい定式化を利用した新しいシミュレーション手法、電磁流体力学のコントゥア・ダイナミクスによる数値計算法の研究を行っています。


数理流体力学

 流体科学研究の発展においては、基礎的な研究手法の開発・応用は重要な位置を占めます。微分幾何学や解析学などの数学的手法を応用する研究を行っています。